イロドリ便り

当事務所の弁護士&スタッフが、日常の由無し事を綴ります

真面目な投稿「告訴と被害届」

先日、依頼者からこんな質問がありました。
「一旦取り下げて、再度告訴することは出来るのでしょうか?」

実は、告訴「される」側の方からの相談でしたが、この質問には2つのポイントがあります。
①告訴と被害届は違う。
②再度の告訴は不可能だが、被害届の提出は可能(ただし、意味がないかも)。

①告訴と被害届
 告訴は、法律に規定があります(刑事訴訟法230条以下)。
 ものの本によれば、その定義は「犯罪の被害者等が、捜査機関に対して、犯罪事実を申告し、その訴追(処罰)を求める意思表示」だそうです。
 ポイントは、処罰を求める意思表示、という部分でしょうか。

 他方、被害届は「捜査機関に、犯罪事実および被害の発生を届け出ること」です。
 被害届は、ただの申告でしかない、ということです。ただし、警察官は、その被害届を捜査の端緒(きっかけ)の一つとして、捜査を開始することになります。
 仮に、被害届の様式であったとしても、そこに「厳重に処罰してください。」と記載すれば、法的には告訴、にあたるでしょうね。
 今回の相談では、依頼者は「告訴」と言いますが、実際にどちらなのかは不明でしたので、両方とも考えてみます。

②再度の告訴、再度の被害届
 一度、取り消した告訴は、再度行うことは出来ません(同法237条2項)。

 では、被害届はどうでしょう?
 こちらは、そもそも「取り消す」ということがありません。再度の被害届は、被害届をもう一度出した、ということと同じです。再度の被害届、それ自体は、法律上の制限はありません。
 しかし、①でも述べたように、被害届は、捜査の端緒でしかありません。捜査の義務は発生しません(告訴は、速やかに捜査に努める義務があります。犯罪捜査規範67条)。そして、以前の被害届の提出で捜査を開始していたとしたら、2回目出したとしても、捜査の端緒にすらなりません。

 以上から、依頼者の質問(ただし、捜査→処分が既に終わっている場合です。)に対しては、「再度の告訴は出来ない。再度の被害届であれば可能だが、特に意味はないので心配しなくてよい。」となります。

 なお、警察官は、よく、「再度の被害届は受け付けない」とか「出せない」と言います。告訴と同じだと考えている(法律を良く分かっていない?)警察官もいます。
 しかし、再度の被害届に、法律上の制限はありません。また、犯罪捜査規範61条では、「警察官は、犯罪による被害の届出をする者があったときは・・・これを受理しなければならない」とされています。
 なので、受け付けない、出せない、という回答は、明確に誤りです。正しくは、「受け付ける、しかし、捜査の端緒とはならない(すでに捜査済み)ので、これ以上の捜査はしない」という回答になるでしょう。結論は同じですが・・・

以上です。少し長くなってしまいました。
たまには真面目な投稿もしないと、何の仕事をやっているか分からなくなりますからね・・・
もし、疑問等があれば、お問い合わせメールをいただけると幸いです。

弁護士 野澤 佳弘

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